揚げ物がべちゃべちゃ|衣に残っているのは、油ではなく水です
こんにちは、管理栄養士のコスモスです。
- べちゃついた衣に残っているのは、水のほうです
- 揚がったものを見て、近いのはどれですか
- 今日揚げたぶんについては、書ける資料がありませんでした
- 低い温度で揚げた衣のほうが、油は少なかった
- 吸った油の7割が、表面に付いているだけのこともあります
- カラッと揚がった衣は、水がここまで抜けています
- 水が抜けないと、なぜ油が入るのか
- 衣に水が残る原因は、油温だけではありません
- べちゃついたから脂質が増えた、とは言えません
- 衣込みで見ると、揚げ物は必ず軽くなっています
- 脂質を左右しているのは、油の温度より衣です
- 「失敗すると何g増えるか」は、書ける資料がありませんでした
- 揚げる時間には、別の顔もあります
- 次に揚げるときに、確かめたいこと
- 揚げ物について、よくある質問
- おわりに
- 出典
べちゃついた衣に残っているのは、水のほうです
- べちゃつきを決めているのは、衣に残った水の量です。 吸った油の量ではありません
- 同じ天ぷらの衣で比べた実測では、低い温度で揚げたほうが吸油量は少なく、それでもべとついています
- 今日べちゃついたぶんを立て直す方法は、公的な資料に見つかりませんでした。 そこは正直に書きます
「低い温度で揚げたから、油を吸ってべちゃっとした」。よく言われている説明です。
ところが、日本調理科学会の学会誌に載っている実測の表は、その逆の数値を示していました。順に見ていきます。
揚がったものを見て、近いのはどれですか
失敗といっても、原因の置き場所が違います。
- A:衣が全体にしんなりして、重い。 水が抜けきっていないタイプです。この記事の中心はここです
- B:揚げた直後はよかったのに、置いたらしなびた。 油から上げたあとの話になります。後半で扱います
- C:衣が厚ぼったく、フリッターのようになった。 小麦粉のグルテンが関わります。中盤で扱います
- D:衣がはがれた。 べちゃつきとは別の失敗です。この記事では扱いません
AとBは重なることもあります。どちらも「水」が主役という点では同じ話になります。
今日揚げたぶんについては、書ける資料がありませんでした
先に、いちばん知りたいところをお断りしておきます。
べちゃついた揚げ物を、いまカラッと戻す方法。トースターで何分か、霧吹きは効くのか。公的機関やメーカーが数値で示した資料は、探した範囲では見つかりませんでした。
二度揚げについても同じです。温度と時間を根拠つきで示した公的資料は見つかりませんでした。
むしろ逆向きの実測があります。1990年の帯広大谷短期大学紀要に、揚げ物の吸油量と脱水率を測った報告があります。本文には、二度揚げをした素揚げと鶏のから揚げでは、吸油も水分の蒸発も1度目で大部分が起きていたと書かれています。
要約にも、鶏のから揚げの2度目は脱水率が低かったと書かれています。
二度揚げが無意味という意味ではありません。ただ、「2度目でしっかり水を飛ばす」という説明を裏づける数字は、ここにはありませんでした。
ここは資料が答えていない場所です。手順の目安を私の側で作ることはしません。
低い温度で揚げた衣のほうが、油は少なかった
ここからが本題です。
三重大学名誉教授の浜田滋子氏が、1994年の学会誌『調理科学』に「揚げもの」という解説を書いています。そのなかに、天ぷらの衣だけを揚げて水分と油分を測った表が載っていました。
表4「てんぷらの衣の吸油量」の数値です。
| 揚げ温度 | 揚げ時間 | 吸油量 | 水分 | 全吸油量に対する表面付着油率 |
|---|---|---|---|---|
| 120℃ | 1分 | 32.8% | 32.2% | 68.6% |
| 120℃ | 2分 | 56.3% | 15.4% | 55.6% |
| 120℃ | 3分 | 56.1% | 6.2% | 49.3% |
| 180℃ | 1分 | 57.3% | 8.2% | 55.8% |
| 180℃ | 2分 | 68.2% | 3.1% | 54.8% |
| 180℃ | 3分 | 62.1% | 1.0% | 48.3% |
同じ時間で比べてください。どの時間でも、180℃のほうが吸油量は多くなっています。
本文にはこう書かれています。
表4には180℃で揚げた衣と120℃の衣との吸油量と水分が示されている。前者はからりと揚がり歯もろさも大きいが,後者はべとついて油じみた感触がある。
からりと揚がっていたのは、油を多く吸っていた180℃のほうでした。続きです。
誰しも120℃揚げの方が吸油量は多いと考えるであろうが表4は逆の数値を示している。
分かれ目も書かれていました。
衣の状態がからりとしているかどうかは衣の水分に左右されるもので,
続きに、両方向がそろっています。
吸油量が多くても水分が少なければ衣は軽く,水分が多ければたとえ吸油量が少くても衣は油じみた感じを与えるのである。
120℃で1分の衣は、水分が32.2%も残っていました。180℃で3分の衣は1.0%です。
べちゃついた衣に残っているのは、油ではなく水だったということになります。
ふたつ、断っておきます。本文で表4を示すところに注がついていて、もとは同じ著者が1961年に発表した研究の数値です。それから、吸油量の%が何に対する割合なのかは表にも本文にも書かれていません。ですので、この記事では同じ表のなかでの大小としてだけ扱います。
吸った油の7割が、表面に付いているだけのこともあります
表4には、あまり紹介されない列がもうひとつあります。いちばん右の「全吸油量に対する表面付着油率」です。
吸った油のうち、どれだけが表面に付いているだけか、という割合です。
120℃で1分の衣は、68.6%。吸った油の7割近くが、内部に入らず表面にとどまっていました。
180℃で3分の衣は48.3%まで下がります。時間が長くなるほど、この割合は下がっていきます。
低い温度で短く揚げた衣は、油を吸っている量そのものは少ないのに、その多くが表面にべたりと残っている。口に入れたときの油っぽさは、ここから来ているのかもしれません。
ただし、この列について原文は何も説明していません。ここは資料に書かれていない、私の読みです。
カラッと揚がった衣は、水がここまで抜けています
では、うまく揚がった衣の水分はどれくらいなのでしょうか。
農林水産省の「米粉の調理科学」というページに数値がありました。お茶の水女子大学名誉教授の香西みどり氏が執筆しています。
天ぷら衣は、揚げる前の水分は60~70%ですが、揚げた後のそれは10~20%くらいに減っています。
同じページの続きです。
「カラリと揚がったおいしい天ぷら」では、揚げるときに衣の水分が出ていき、油が中に入る、という水と油の交代が十分に起こっています。
このページの主題は米粉です。天ぷらは小麦粉との対比で出てきます。そこは正確にしておきたいところです。
さて、この60~70%から10~20%という範囲は、別の公的な資料でも裏が取れます。
日本食品標準成分表の数値です。天ぷら用のバッター(衣の生地)が、生と揚げのふたつで載っています。
- 生のバッター100g:水分65.5g
- 揚げたバッター100g:水分10.2g
生の65.5%は「60~70%」のなか、揚げたあとの10.2%は「10~20%」のなかに、きれいに収まりました。別々の役所が出した資料が、同じ範囲を指しています。
なお成分表の重量変化率では、生のバッター100gは揚げると85gになります。もとの水65.5gが、8.7gほどまで減った計算です。
衣を揚げるという作業は、衣から水を追い出す作業だったということになります。
水が抜けないと、なぜ油が入るのか
水が抜けることと、油が入ること。この2つがどうつながるのかを書いた資料があります。
東京海洋大学の鈴木徹氏が、2009年の『オレオサイエンス』に書いた解説です。
すなわち油吸収はフライ過程では蒸気圧に拮抗する小さな細孔内の毛管力による吸収によって起こり, ポストフライ過程では蒸気の凝縮減圧による吸収によって生じる。
言葉をほどきます。「フライ過程」は揚げているあいだ、「ポストフライ過程」は油から上げたあとのことです。
揚げているあいだは、衣から水蒸気が勢いよく出ています。J-オイルミルズの公式サイトにも、こうあります。
水分の沸点は100℃であることから、揚げ油の中に入れられた揚げ種からは激しく水蒸気が出てきます。
外へ出ていく蒸気が、内側へ入ろうとする油を押し返しています。
問題は油から上げたあとです。冷えると、なかに残っていた蒸気が水にもどって体積が縮みます。すると内側の圧力が下がり、表面に付いていた油が吸い込まれます。これが「凝縮減圧による吸収」です。
どちらが主役になるかも、書き分けられていました。
よって初期水分含量の低い食品への油吸収は主としてフライ過程での油吸収が支配的であり,
天ぷらの衣は、こちらではありません。
水分含量の高いバッター状の食品では発達した複雑な表面に付着した油のポストフライ過程での吸収が支配的であることが明らかにされた。
天ぷらのような水の多い衣では、油から上げたあとの吸収のほうが主役だということです。
網に立てて置く、重ねない。よく言われるこの手順に、理屈がつきます。上げた直後の数十秒に、表面の油が入るか落ちるかが決まっているからです。
なお、この境目にあたる水分の割合は、資料によって書かれている数字が違っていました。ですので、ここでは数字を出しません。
衣に水が残る原因は、油温だけではありません
油の温度以外にも、水が抜けにくくなる条件があります。
衣を混ぜすぎたとき
農林水産省の同じページに、はっきり書かれていました。
小麦粉で作った衣は、加水後は時間とともにグルテンが形成されることで衣の粘性が高まるため水と油の交代が起こりにくくなってしまい、カラリと揚がりません。
グルテンは、小麦粉に水を加えて混ぜるとできる、粘りのもとになるたんぱく質です。これが増えると衣がねばり、水が出ていきにくくなります。
製粉メーカーの昭和産業も、同じことを書いています。
衣を作るときに冷水を使うのは、粘り(グルテン)を出さないためです。
グルテンが出るとどうなるかも、続けて書かれていました。
余分な水分が抜けにくくなり、カラッと揚がらない。
いつ作るかにも触れています。
時間が経つとカラッと揚がらなくなるので、揚げる直前に作るのがポイントです。
国と製粉メーカーが、別々に同じことを言っています。 衣は混ぜすぎず、作ったらすぐ揚げる。ここは資料の足並みがそろっています。
一度にたくさん入れたとき
こちらは、資料の言うことが割れていました。同じ「入れすぎない」でも、目安の量が違います。
- 農林水産省「一度に揚げる量は油の温度が下がりすぎないように油の表面積の半分程度までにし」
- 日本植物油協会「一度に揚げる量は油の温度が下がりすぎないように油の表面積の1/2〜2/3までにし」
- 日清オイリオグループ「油の表面の1/3~1/2程度を目安に少しずつ揚げましょう」
上限は、農林水産省と日清オイリオグループが半分まで。日本植物油協会だけが3分の2までです。
おもしろいのは、農林水産省のページが参考資料に日本植物油協会を挙げていることです。温度や鍋の形についての書きぶりもよく似ています。それでも、この分量のところだけが違っていました。
迷ったときは、上限がいちばん低い「表面積の半分程度」に合わせておけば、どの資料からも外れません。
鍋の形についても、農林水産省が触れています。
鍋は深めのフライパンなど口が広いものの方が、蒸気がとびやすいので、からっと揚がります。
ここでも理由は蒸気です。出ていく水の逃げ道を作る、という話でそろっています。
べちゃついたから脂質が増えた、とは言えません
ここからは栄養の話です。
「べちゃっとしたのは油を吸いすぎたから。だから脂質も増えたはず」。そう考えたくなります。ですが、成分表の数字はそうなっていませんでした。
日本食品標準成分表には、揚げ物の吸油量をまとめた表13があります。注にこうあります。
*:揚げ物料理の脂質量の増減は,調理前の主材料食品100gに対する揚げ油の吸油量 (g) である。
つまり、この増減の数字がそのまま吸油量です。主な揚げ物を並べます。
| 食品 | 生の材料100gあたりの吸油量 |
|---|---|
| ぶなしめじ 天ぷら | 32.3g |
| ぶた ロース 脂身つき とんかつ | 13.4g |
| にわとり ささみ フライ | 10.9g |
| ぶなしめじ 素揚げ | 8.4g |
| にわとり ささみ 天ぷら | 6.0g |
| にわとり もも 皮なし から揚げ | 4.3g |
| にわとり もも 皮つき から揚げ | −0.7g |
| くろまぐろ 養殖 脂身 天ぷら | −5.2g |
下のふたつがマイナスです。成分表の上では、油を吸っていないことになっています。
なぜこうなるのか。理由は、さきほどの浜田氏の解説に書かれていました。
表3の肉だんごや鶏肉揚げの場合をみると,吸油率は1%と極端に少ない。これは,肉だんごや鶏肉のような多脂食品では,揚げ油を吸収する一方で,食品成分の脂肪が油の方へ溶出するという変化が起ることをもの語るものである。
脂の多い食材では、油を吸うのと同時に、食材の脂が油のほうへ出ていっています。 差し引きした結果が、あの1%やマイナスの数字です。
日清オイリオグループの公式サイトにも、この1%という数字が載っています。
食材の吸油率:キスの天ぷら18%>トンカツ約14%>かぼちゃの素揚げ7%>鶏肉のから揚げ1%など
出典は女子栄養大学出版部の『五訂増補 調理のためのベーシックデータ』と明記されています。ただし、なぜ1%なのかという理由までは書かれていませんでした。
ひとつ、誤解のないように補います。から揚げを食べると脂質が減る、という話ではありません。
同じ成分表の本表を見ると、鶏もも肉(皮つき)の脂質は生が100gあたり14.2g、から揚げが18.1gです。100gあたりで比べれば、増えています。
からくりは重さです。重量変化率の表では、生100gのもも肉はから揚げにすると75gになります。水が抜けて縮んだぶん、残ったものが濃くなっただけでした。
さきほどのマイナスは、生の肉100gを基準にした数字でした。100gあたりで比べた数字とは、ものさしが違います。
衣込みで見ると、揚げ物は必ず軽くなっています
成分表の重量変化率には、揚げ物だけの読み方があります。注を引きます。
・天ぷら、フライなど油と衣を使った調理の重量変化率については、「調理前の食品と揚げる前の衣の質量」を基準とした調理後の質量%を( )で示した。
カッコの中と外で、分母が違います。 カッコの外は材料だけ、カッコの中は材料に衣を足した重さが分母です。
| 食品 | 材料だけを分母にした値 | 衣を足した値 |
|---|---|---|
| にわとり もも 皮つき から揚げ | 75 | (65) |
| ぶた ヒレ 赤肉 とんかつ | 97 | (75) |
| ロースハム フライ | 132 | (87) |
| ウインナーソーセージ フライ | 102 | (95) |
ロースハムのフライは132で、材料だけを見れば重くなっています。ところが衣を足すと87です。
表12で衣を使っている揚げ物26件について、カッコ内を全部確かめました。いちばん高いのはまさばのフライで96、低いのは鶏もも肉(皮つき)のから揚げで65です。100を超えるものはひとつもありませんでした。
衣ごと数えれば、衣を使った揚げ物はどれも軽くなっている。増えたように見えるのは、衣を足した分です。
脂質を左右しているのは、油の温度より衣です
では何が脂質を決めているのか。表がそのまま答えていました。
同じ鶏ささみで、天ぷらは6.0g、フライは10.9gです。同じぶなしめじで、素揚げは8.4g、天ぷらは32.3gでした。3.8倍ほどの開きがあります。衣の違いだけで、これだけ変わります。
日清オイリオグループも、同じ順番を書いています。
食材や衣の量で異なりますが、概ね天ぷら>フライ>素揚げ>から揚げの順に油を吸い込みます。
順番が成分表と少し違いますが、から揚げがいちばん少ないという点では一致しています。
もうひとつ、油の量についての実測があります。東京ガス都市生活研究所が2017年に出した研究です。鶏むね肉のから揚げで、フライパンに約3cmの油を使う揚げ方と、約1cmで揚げる方法を比べています。
油で揚げる調理法では、「深油揚げ調理」よりも「浅油揚げ調理」の方が脂質が多いことが分かりました。
油を少なくしたほうが、脂質は多くなっていました。 理由も書かれています。
「浅油揚げ調理」の方が食材を入れた時の油の温度の低下が大きいことや、食材全体が油に浸からないためひっくり返す必要があるなど、
理由の本体は、そのあとに続きます。
調理時間が長くかかるため、より多くの油を吸ってしまうことが原因と考えられます。
仕上がりについては、こうありました。
油を使った揚げ物では、「深油揚げ調理」と「浅油揚げ調理」の間に、仕上がりの差はありませんでした。
衣の種類でも比べています。
その結果、脂質はパン粉をつけた「フライ」が最も多く、次に「天ぷら」、最も少ないのは「から揚げ」でした。
成分表の並びと同じ結果です。ただし、この研究で公開されているのは差をカロリーで表した数字までで、脂質の実数は出ていません。
もうひとつ、学校給食の現場からの報告があります。日本調理科学会の2016年の大会発表です。
170℃で3分揚げた鯛の唐揚げは、 ガス回転釜の吸油率が8.6%、 フライヤーの吸油率が4.6%であった。
同じ鯛でも、唐揚げでは機器が違うと吸油率が変わっていました。ただし天ぷらでは差がなく、両方とも約5%です。
差が出た理由も書かれています。ガス回転釜のほうが投入時の油温がわずかに高く、そのぶん水分の蒸発が多かった。だから油も多く吸った、という説明でした。
ここでも、水がよく飛んだほうが油を多く吸っています。 表4と同じ向きです。ただし大会の要旨で、大量調理の機器を使った条件になります。そのまま家庭に持ち込める数字ではありません。
「失敗すると何g増えるか」は、書ける資料がありませんでした
いちばん知りたいところだと思います。べちゃっと失敗したとき、脂質は何g増えるのか。
この記事では出しません。資料がないからです。
成分表の数値は、決められた条件でうまく揚がった1点を分析したものです。失敗したときと成功したときを比べた資料は、公的機関にもメーカーにも学会誌にも見つかりませんでした。
吸油率という数字そのものも、資料によって開きがあります。鶏のから揚げは、日清オイリオグループの表で1%、成分表の表13ではマイナスです。分母の違いではありません。表13には衣込みを分母にした値も並んでいて、そちらもマイナスでした。
違うのは、測った人と条件です。日清オイリオグループが載せている数字は女子栄養大学出版部の書籍から、成分表の数字は文部科学省の分析からきています。
浜田氏も、吸油率の出し方について断りを書いていました。
この表の吸油率は食品素材に対する比率で表されているのでばらつきが大きいが
出どころの違う数字を並べて足し算すれば、答えは合いません。ですので、1食あたり何kcalという計算はここでは作りません。
揚げる時間には、別の顔もあります
長く揚げるほど水は抜けます。では長ければ長いほどよいのか。そこはもう少し複雑でした。
2025年の日本調理科学会大会で、えびの天ぷらを180℃で10秒・1分・3分・5分と揚げ分けた発表がありました。
衣とえびの水分量は、揚げ時間0秒と比較し、揚げ時間の経過によって有意に減少していた。
ここまでは、これまでの話と同じです。ところが、味の評価はこうでした。
衣の油っぽさの感じ方は、揚げ時間5分の試料では1分より有意に強かった。
5分の衣は、1分より油っぽく感じられていました。3分については、要旨に油っぽさの記載がありません。それでも総合評価は違いました。
全体の総合評価は、揚げ時間1分の試料と比較し3分・5分では有意に高かった。
油っぽさは増えるのに、全体としてはおいしいと評価されている。「水を飛ばせば飛ばすほどよい」と単純に言い切れない話です。大会の要旨なので、数値は公開されていません。方向を知る材料として置いておきます。
次に揚げるときに、確かめたいこと
資料に書いてある範囲だけで並べます。
1. 衣は混ぜすぎず、作ったらすぐ揚げる。 グルテンが出ると水が抜けにくくなります(農林水産省・昭和産業)
2. 一度に入れる量は、油の表面積の半分程度まで。 上限がいちばん低い目安に合わせます(農林水産省・日清オイリオグループ)
3. 鍋は口が広いものを選ぶ。 蒸気が逃げやすくなります(農林水産省)
4. 温度は、野菜が170℃くらい、肉や魚は175~180℃くらい。(農林水産省)
5. 上げたら重ねず、網に置く。 冷えるときに表面の油が吸い込まれます(鈴木徹氏の解説より)
6. 油を減らしても、脂質は減るとは限りません。 浅い油は調理時間が延びます(東京ガス都市生活研究所)
献立全体の脂質が気になったときは、たんぱく質のかんたん計算機などの無料ツール一覧もどうぞ。揚げ物と組み合わせる主菜を選ぶときは、高たんぱく低脂質の食品一覧も使えます。
揚げ物について、よくある質問
Q. 二度揚げは意味がありますか?
温度と時間を数値で示した公的機関やメーカーの資料は、見つかりませんでした。1990年の短期大学紀要の実測では、吸油も水分の蒸発も1度目で大部分が起きていました。2度目を表面の仕上げと考えるなら、この実測と矛盾しません。
Q. 揚げ焼きにすればヘルシーですか?
東京ガス都市生活研究所の実験では逆でした。油が浅いほうが調理時間が長くなり、脂質は多くなっています。ただし条件は鶏むね肉のから揚げひとつです。
Q. 米粉の衣は油を吸いませんか?
農林水産省が「米粉は小麦粉より油の吸収率が低い」と書いています。同じページに、揚げたあともサクサク感が長く続くとあります。数値までは示されていません。
Q. 衣がはがれるのも、同じ原因ですか?
別の失敗です。この記事では扱っていません。
Q. 冷凍した食材をそのまま揚げてもいいですか?
商品ごとに表示が違うので、パッケージの指示に従ってください。水っぽくなる仕組みそのものについては冷凍野菜をレンジで加熱すると水っぽくなるのはなぜ?で扱っています。
Q. 揚げたものは、いつまで食べられますか?
べちゃつきは品質の話で、日持ちは衛生の話です。別々に考えてください。保存の考え方は作り置きはいつまで食べられる?にまとめてあります。
おわりに
べちゃっとした衣を前にすると、油を吸いすぎたのだと思ってしまいます。私もそう説明されてきました。
でも学会誌の表は、逆を示していました。低い温度で揚げた衣のほうが、吸っていた油は少なかった。それでもべとついていたのは、水が残っていたからです。
農林水産省、食品成分表、学会誌、企業の研究所。系統の違う4つの資料が、どれも同じほうを指していました。揚げるという作業は、油を入れる作業ではなく、水を追い出す作業です。
そう考えると、次に手を動かす場所も変わります。温度計とにらめっこするより、衣を混ぜすぎないこと、鍋に詰め込まないこと、上げたら重ねないこと。どれも水の逃げ道を作る作業です。
失敗したぶんを今から立て直す方法は、残念ながらお伝えできません。そこは資料が答えていない場所でした。
出典
公的機関・メーカーのページはいずれも2026年8月26日に確認しました。学術論文はJ-STAGEの公開PDFを直接確認しています。
- 浜田滋子「教材研究 揚げもの」『調理科学』27巻4号 326-331(1994年、日本調理科学会)
- 表4「てんぷらの衣の吸油量」/表3の吸油率/多脂食品からの脂肪の溶出
- 表4の数値は、同じ著者の『家政学研究』8巻35ページ(1961年)に基づく数値です
- 文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」
- 第1章 表12「調理方法の概要および重量変化率表」
- 第1章 表13「揚げ物における衣の割合及び脂質量の増減」
- 第2章(データ)本表
- 農林水産省「米粉の調理科学」(米・米粉情報まとめサイト/執筆:お茶の水女子大学名誉教授 香西みどり)
- 農林水産省 消費者の部屋「家庭で揚げ物をする際に、どうすれば上手に揚げることができますか。」(令和5年更新)
- 鈴木徹「フライ調理における食品の状態の変化と油吸収」『オレオサイエンス』9巻2号 43-49(2009年、日本油化学会)
- 柴山真理子・植田志摩子「揚げ物の吸油量、脱水率、温度変化および重量変化について」『帯広大谷短期大学紀要』27巻 7-15(1990年)
- 嶋田さおり・渋川祥子ほか「学校給食における揚げ物料理の吸油率」日本調理科学会平成28年度大会研究発表要旨集
- 保坂悠芳ほか「天ぷらの揚げる時間がその内部構造及び嗜好性に及ぼす影響について」日本調理科学会2025年度大会研究発表要旨集
- 東京ガス ウチコト「【徹底比較】揚げ方・油の量・衣の種類で仕上がりとカロリーはどう変わる?」(監修:東京ガス都市生活研究所/原典は同研究所ミニレポート「揚げ物調理に関する研究」2017年2月)
- 日清オイリオグループ「揚げ物料理をおいしくつくるコツは?」
- 一般社団法人 日本植物油協会「上手に使いこなす料理のコツ」
- 昭和産業「天ぷら粉と小麦粉の違いとは?」
- 株式会社J-オイルミルズ「よくあるご質問:つかいかた(食用油共通)」
※ この記事は、公的機関・メーカー・学会誌が公表している記載の範囲を整理したものです。数値はいずれも決められた条件での分析値であり、ご家庭の鍋や火力にそのまま当てはまるものではありません。