きのこ類

茶碗蒸しが固まらない3つの原因|まいたけ・だしの量・だしの塩気

コスモス

こんにちは、管理栄養士のコスモスです。

蒸し器から出したら、茶碗蒸しが液体のままだった。あと5分と思って追加で蒸しても、やっぱり固まらない。

原因は、たぶん次の3つのどれかです。

固まらなかった原因は、3つのどれかです

  • 生のまいたけを入れた。 まいたけの酵素が卵のたんぱく質を分解します
  • だしが多い、または塩気が薄い。 薄めるほど、固まるのに高い温度が必要になります
  • 火が弱すぎた、または強すぎた。 強火でも固まりにくくなることが、実測されています

3つ目を意外に思われたかもしれません。強火で一気に蒸すと、かえって固まりにくくなります。あとで数字をお見せします。

入れたきのこは、まいたけでしたか

まいたけを入れた方は、ここで話が終わります。

きのこメーカーのホクトが、お客様相談室のQ&Aで正面から答えていました。質問文がそのまま、いま起きていることです。

茶碗蒸にマイタケを入れたのですが、固まりませんでした。どうしてでしょうか。

回答はこうです。

茶碗蒸は、卵に含まれるタンパク質が熱によって固まる性質を利用した料理です。

「マイタケ」にはこのタンパク質を分解する「タンパク質分解酵素」が含まれており

その働きについては、こう続きます。

この働きにより卵のタンパク質が分解されてしまい、加熱しても固まらないという状況がおきます。

卵が固まる仕組みそのものを、まいたけが崩してしまうわけです。加熱すれば固まる、という前提が成り立たなくなります。

雪国まいたけブランドを持つユキグニファクトリーも、同じことを書いていました。

生のままですと、まいたけに含まれる「たんぱく質分解酵素」の働きにより卵のたんぱく質が分解されるため、茶碗蒸しが固まらなくなってしまいます。

対処についても、両社が書いています。ホクトはこうです。

「マイタケ」を茶碗蒸に入れる前に、湯通し(100℃のお湯で30秒以上)をする方法があります。なお、ハンバーグに混ぜて使う場合も同様です。

ユキグニファクトリーはこう書いています。

加熱することで酵素の働きは弱まりますので、まいたけを具材として使う場合は、加熱してから入れてください。

生のまま卵液に入れないこと。ここは2社の書き方が一致しています。

ひとつ補足すると、他のきのこについては両社とも触れていませんでした。しめじやえのきで同じことが起きるとは、公式のどこにも書かれていません。名指しされているのは、まいたけだけです。

「加熱すれば大丈夫」と「熱に強い」、書いてあることが割れています

ここで、調べた方ほど混乱している点に触れておきます。

この酵素について検索すると、「加熱すれば失活する」と書いてあるページと、「熱に強いので失活しない」と書いてあるページの両方が出てきます。まったく逆のことが並んでいる状態です。

では公式はどう書いているか。もう一度、言葉づかいに注目してください。

ユキグニファクトリーは「酵素の働きは弱まります」でした。「失活します」とは書いていません。ホクトのほうは、失活する温度も時間も示さず、湯通しという調理法の目安だけを書いています。

つまり、両社とも「何℃で何分で失活する」という線は引いていないのです。

ですので、この記事でもその線は引きません。書けるのは、生のまま入れないこと、先に加熱してから入れること、そして加熱の目安としてホクトが100℃で30秒以上の湯通しを挙げていること。ここまでです。

なお「たんぱく質分解酵素」は、専門的にはプロテアーゼと呼ばれます。ユキグニファクトリーも、肉をやわらかくする用途の説明ではこの名前を使っていました。

きのこを入れていないのに固まらなかったとき、疑うのは2つ

まいたけに心当たりがない方は、卵液のほうを見ていきます。疑う場所は2つです。

だしの量

「卵1に対してだし3」といった比率をよく見かけます。ただ、「これを超えると固まらない」という限界値を示した資料は、今回探した範囲では見つかりませんでした。

実測から言えるのは、もう少し違うことでした。

日本調理科学会の『調理科学』(1971年)に、山脇芙美子先生の「稀釈卵の熱凝固による調理」という報告があります。卵の濃度を変えて、どの温度で固まるかを測ったものです。

30%,40%では76℃以上でかたまり,50%では74℃でかたまる

卵濃度20%については、こう書かれています。

材料の中部が78℃(76℃では,やっとかたまる程度であるから少なくとも78℃が必要である)になったとき,加熱をやめる

まとめると、こうなります。

卵の濃度卵とだしのおよその比固まるのに必要な中心温度
20%1対478℃
30〜40%1対2〜1.576℃以上
50%1対174℃

出典: 山脇芙美子「稀釈卵の熱凝固による調理」調理科学 Vol.4 No.2(1971年)

同じ報告に、理由も添えられていました。

卵の濃度が増すと凝固温度が低くなるから,加熱時間は短くてよい

薄めれば固まらなくなる、のではありません。薄めるほど、固まるのにより高い温度が要るのです。だしを多めにしたなら、中心がしっかり熱くなるまで待つ必要があります。

ちなみに、卵1に対してだし4という薄さでも固まることは、1964年の報告でも確かめられています。山脇先生と松元文子先生が家政学雑誌に出したもので、中心温度が条件でした。

中部が78℃(これより低温では凝固しない)に達した時、加熱をやめる

なお市販の茶碗蒸しの卵液濃度を測った報告もあり、外食専門店で24.6%から33.2%の間でした。お店でも幅があります。黄金比を1つに決める必要はなさそうです。

だしの塩気

こちらは、あまり語られていない話です。

卵液が固まるには、塩が関わっています。家政学雑誌(1976年)に、斉田由美子先生・村田安代先生・松元文子先生の「卵液の熱凝固について」という報告があります。

卵30%,水70%の卵液を熱凝固させた場合,均質なゲルは得にくい.

続けて、こうあります。

30%卵濃度でカードメーターによる破断力のあるゲルを調製するためには,0.3%の食塩の添加が必要であり

薄い卵液のときの記述もありました。

ゲルからの離漿が極端に多く

離漿というのは、固まったものから水が分離してくることです。卵濃度15%と20%で、これが極端に多かったと報告されています。

この実験はだしではなく水で行われたものなので、家庭の茶碗蒸しにそのまま当てはめることはできません。ただ、塩気がゲルの安定に関わるという関係は示されています。

だしを薄めにして、味つけも控えめにした。心当たりがあれば、ここが効いている可能性があります。

弱火で固まらない人と、強火で固まらない人がいます

火加減の話です。弱すぎると固まらないのは、想像がつくと思います。問題は逆方向です。

日本調理科学会誌(2000年)に、久塚智明先生らの「茶碗蒸しの物性に及ぼす影響因子の解析」という報告があります。温度の上げ方の速さを変えて、固まり始める温度を測ったものです。

昇温速度を2,5と10℃/分に設定し,各昇温速度時におけるゲル化開始温度の測定結果を図2に示した。それぞれ76.7℃,77.4℃と79.5℃と昇温速度が速くなるほど,ゲル化開始温度が高くなり,ゲル化が遅く凝固しにくいことを示した。

温度を速く上げるほど、固まり始める温度が上がっています。報告はこう述べていました。

急速加熱した場合,凝固しにくくなるという今回の成果

早く固めたくて火を強めると、逆方向に働くわけです。

1971年の報告にも、似た指摘がありました。蒸し板の直上を85℃に保った場合と95℃にした場合を比べています。

蒸し板直上附近の温度が85℃のばあいでは,試料中部が78℃に達したときの試料の下部は81.5℃,上部は76.5℃であるが

火を強めた場合はこうなります。

95℃のばあいでは,下部が80℃,上部が84.5℃となり,良い性状のものが得られない

強火だと、器の中で温度の差が大きくなってしまいます。

では何を目安にするか。1964年と1971年の報告は、どちらも同じ条件を挙げていました。

蒸し板直上附近の温度を90℃に保つように火力を調節する

卵濃度が20%では15分間加熱する

蒸し器の中を沸騰させきらず、90℃くらいに保つ。時間は15分。60年前と55年前の報告が、同じところに着地しています。

固まらなかった器を、いま食べてよいのか

ここは、独自の基準を作らずに書きます。

まず事実として、公的機関が家庭向けに示している卵の加熱の目安は、温度ではなく状態でした。厚生労働省の内容を掲載している日本食品衛生協会のページには、こうあります。

十分加熱して調理する場合のめやすは、卵黄も白身もかたくなるまで加熱することです。

固まっていない茶碗蒸しは、この目安には届いていない状態です。

では、固まらなかったものをどうすればよいのか。公的機関は、そこに答えを書いていません。 加熱不足のまま仕上がってしまった料理をどう扱うかの基準は、探した範囲では見当たりませんでした。

再加熱についても同じでした。書かれているのは次の2つの場面だけです。

途中でやめるような時は、冷蔵庫に入れましょう。再び、調理をするときは、もう一度、十分加熱しましょう。

もうひとつが、温め直しの場面です。

残った食品を温め直す時も十分に加熱しましょう。

調理を中断した場合と、残ったものを温め直す場合です。加熱が足りないまま完成した料理を救う方法としては書かれていません。

判断に迷うときの言葉は、公的機関がそのまま書いています。厚生労働省の「家庭でできる食中毒予防の6つのポイント」にあるものです。

ちょっとでも怪しいと思ったら、食べずに捨てましょう。口に入れるのは、やめましょう。

東京都のページにも、卵料理についてこうあります。

残った卵料理は、時間が経ち過ぎたら思い切って捨てましょう。

もうひとつ、対象者についての注意も添えておきます。内閣府 食品安全委員会の記載です。

高齢の方、2歳以下の乳幼児、妊娠中の女性、免疫機能が低下している方は、できる限り十分に加熱した卵料理をおすすめします。

「卵は75℃1分」は、どこから来た数字なのか

調べていると、この数字によく出会います。ただ、出どころを追うと対象が違っていました。

法令にあたる厚生省生活衛生局長通知の数字は、75℃ではありません。

鶏の殻付き卵又は未殺菌液卵を使用して食品を製造、加工又は調理する場合は、その工程中において七〇℃で一分間以上加熱するか

70℃で1分間以上。そして対象は、食品を製造・加工・調理する事業者です。家庭を縛る規定ではありません。

厚生労働省の「家庭でできる食中毒予防の6つのポイント」にある75℃1分は、卵に限った数字ではありませんでした。

めやすは、中心部の温度が75℃で1分間以上加熱することです。

こちらは加熱調理する食品全般に向けた記述です。同じ75℃1分でも、大量調理施設衛生管理マニュアルのものは、1回300食以上を提供する施設が対象になります。

食品安全委員会にいたっては、同じQ&Aの中で食肉には数字を書きながら、卵には温度を書いていませんでした。

食肉は中心部まで十分加熱する(75℃で1分以上)

数字が資料ごとに違うのは、誰に向けて書かれたものかが違うからです。ですので、家庭の茶碗蒸しに当てはめる温度と時間を、この記事が新しく決めることはしません。

まいたけと卵を、いっしょに使いたいときの順番

ここまでの資料に書かれている範囲だけで、順番を並べます。

  1. まいたけは先に加熱してから、卵液に入れる。 ホクトは湯通し100℃30秒以上を挙げています。他の具材と炒めたり、煮てから使う形でも構いません
  2. だしを増やしたら、その分しっかり温度を上げる。 卵1対だし4なら、中心が78℃に届くまでが目安になります
  3. 味つけを極端に薄くしない。 塩気はゲルの安定に関わっています
  4. 蒸し器を沸騰させきらない。 直上90℃を保つ火加減で、15分が報告されている条件です

きのこを常備しておきたい方は、きのこは冷凍保存が正解?もどうぞ。ただし冷凍は加熱ではないので、凍ったまま卵液に入れるのは避けてください。

卵そのものの量が気になる方は、卵は1日何個まで?にまとめてあります。牛乳が固まる仕組みのほうは、低脂肪乳や加工乳でもヨーグルトは作れる?で扱いました。卵とは固まり方が違います。

残った疑問に、短く答えます

Q. しめじやえのきでも、同じことが起きますか?

ホクトとユキグニファクトリーのQ&Aを確認しましたが、まいたけ以外のきのこを名指しした記述はありませんでした。公式が挙げているのはまいたけだけです。他のきのこについて、この記事で断定はしません。

Q. 電子レンジで作っても同じですか?

レンジは温度が速く上がる加熱です。上で見たとおり、温度を速く上げるほど固まり始める温度は高くなります。ただしレンジでの茶碗蒸しを測った資料は今回見つからなかったので、加熱時間の目安はお示しできません。

Q. 市販の茶碗蒸しは、なぜきれいに固まっているのですか?

卵液の濃度を測った報告では、外食専門店で24.6%から33.2%でした。家庭のレシピより卵が多めの配合が使われている場合があります。加えて、温度と時間が管理された環境で作られています。

おわりに

茶碗蒸しが固まらなかったのは、腕の問題ではありません。

卵が固まるには、条件がいくつか重なる必要があります。まいたけの酵素が入っていないこと。薄めた分だけ温度が上がること。塩気があること。そして温度が急に上がりすぎないこと。このうち1つが外れると、器の中は液体のままになります。

生のまいたけを入れていたなら、答えはもう出ています。入れていなかったなら、だしの量と塩気、それから火加減を思い出してみてください。

どれか1つ心当たりが見つかれば、次はきっと固まります。

出典

公式ページはいずれも2026年8月24日に確認しました。学術論文はJ-STAGEの公開PDFです。

  • ホクト株式会社 お客様相談室「よくお寄せいただくご質問」
  • ユキグニファクトリー株式会社(雪国まいたけ)「商品に関するQ&A」
  • 山脇芙美子「稀釈卵の熱凝固による調理」調理科学 Vol.4 No.2(1971年)
  • 山脇芙美子・松元文子「鶏卵の調理に関する研究(第2報)卵豆腐の加熱条件」家政学雑誌 Vol.15 No.5(1964年)
  • 斉田由美子・村田安代・松元文子「卵液の熱凝固について(第1報)添加物の影響について」家政学雑誌 Vol.27 No.6(1976年)
  • 久塚智明・小川宣子・渡邊乾二「茶碗蒸しの物性に及ぼす影響因子の解析」日本調理科学会誌 Vol.32 No.4(1999年)
  • 久塚智明ほか「茶碗蒸しの物性に及ぼす影響因子の解析(第2報)」日本調理科学会誌 Vol.33 No.4(2000年)
  • 公益社団法人日本食品衛生協会(掲載内容は厚生労働省「家庭における卵の衛生的な取扱いについて」)
  • 厚生労働省「家庭でできる食中毒予防の6つのポイント」
  • 厚生省生活衛生局長通知「食品衛生法施行規則及び食品、添加物等の規格基準の一部改正について」(平成10年11月25日 生衛発第1674号)
  • 厚生労働省「大量調理施設衛生管理マニュアル」
  • 内閣府 食品安全委員会「食の安全ダイヤルに寄せられた質問等Q&A(生物系物質)」
  • 東京都保健医療局「たべもの安全情報館」

※ 古い論文からの引用は、文字認識の都合で入る余分な空白を詰めた形で掲載しています。文字そのものは変えていません。

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